怪しいと分かっているのに、なぜ高額な商品を買ってしまうのかという、催眠商法について考えてみることにします。
カフェの常連客のおっちゃんと、アルバイト店員であるタケルの会話を通して、高齢者を狙う『催眠商法(SF商法)』の恐るべき手口を紐解きます。
この詐欺の根底にあるのは、単なる無知ではなく、シニア特有の孤独や家族の気遣いでした。
いつもの喫茶店
おっちゃんはいつものように、窓際の席でコーヒーを飲みながら、スマホの画面をじっと見つめていました。
「おっちゃん、今日は新聞じゃないんですか」 カウンターから声をかけてきたのは、アルバイト店員のタケルでした。
「ああ、最近はスマホでもニュースが読めるからな。便利な世の中になったもんだ」
おっちゃんはそう言いながら、タケルに画面を向けた。
タケルは、コーヒーの仕込みをしながら、 「また詐欺の記事ですか。最近多いですよね」
高齢者が催眠商法に騙される理由
「催眠商法って知ってるか?。またの名をSF商法ともいう」
「SFって、 サイエンス・フィクションですか?」
タケルの言葉に、おっちゃんは半笑いすると、
「いやいや。閉め切った会場に人を集めて、最初は日用品をタダ同然で配って熱狂させる。そして、最終的に高額な羽毛布団や健康器具を買わせる悪徳商法の手口だよ」
「ああ、ニュースで見たことあります。でも、どうしてそんなのに騙されちゃうんですかね。怪しいって気づきそうなのに」
おっちゃんはコーヒーを一口すすると、少し寂しそうな目をして言った。
「そこにはな、高齢者の『孤独』が深く関わってるんだ。特に女性の高齢者が狙われやすいのには、ちゃんとした理由があるんだ」
高齢者の孤独
「まず第一に、一人暮らしで一日中誰とも話さないお年寄りがたくさんいる。でも、その会場に行けば、若いスタッフが満面の笑みで歓迎してくれて、親身になって話を聞いてくれるんだ」
寂しい日常の中で、自分のために時間を割いて親切にしてくれる場所があるというだけで、心が救われるような気持ちになってしまい、高齢者はこぞって会場に押しかけるというのがSF商法の始まりなのです。
「会場に入ると、周りの客がみんな笑って、拍手して、大盛り上がりしていると、自分も自然とその空気に引き込まれて楽しくなってくるという、これを『同調心理』という」
詐欺師たちは、その本能を意図的に作り出していて、独特な空気感がそこにはあるのです。
「無料の景品をもらったり、温かいお茶を出されたり、親切な言葉をかけられたりされると、無料でこんなに良くしてもらったのに、何も買わずに帰るのは申し訳ないという気持ちになるだろ」
おっちゃんの言葉に、タケルはすぐさま反応した。
「それ、すごく分かります。デパ地下で試食させてもらったら、買わないと気まずい感覚と同じですね」
「まさにその感覚さ。さらに、女性特有の気遣いがそこに追い打ちをかけるんだ。女性は男性に比べて、場の雰囲気や人間関係を大切にする傾向があるからね。会場全体が盛り上がって、スタッフが親身になって勧めてくれているのに、『結構です』と冷たく断ることができないんだ」
タケルは深いため息をついた。
「なんだか、やりきれないですね。騙される方が悪いとか、欲深かったからだとか思ってましたけど、本当は人の優しさや寂しさにつけ込んでいるだけじゃないですか」
おっちゃんは深く頷き、スマホの画面をそっと閉じた。
騙されないために
静かな店内に響いていたコーヒーメーカーの音が止み、タケルはゆっくりと口を開いた。
「おっちゃん……じゃあ、どうすればそういう被害を防げるんですか。人の優しさや寂しさ、心の隙間をプロに狙われたら、お年寄りが一人で防ぐなんて無理な気がします」
おっちゃんはカップを置くと、まっすぐタケルを見て言った。
「そうだな。一人で防ぐのは確かに難しい。だが、決して防げないわけじゃない。まず一つ目は、お年寄り自身の心の準備だ」
「心の準備……ですか?」
自分は騙されているかもしれないということを知ることで、冷静になることが大事なんだ。
「でも詐欺師の方が、それらを含めて騙してくるんでしょ」
「だからそういうところに近寄らないことが第一で、それだったら近所の公民館の集まりや、カルチャーセンターやボランティアに参加する方が人生楽しくなる。それに、ここみたいに、コーヒーを飲みながら、おしゃべりができる憩いの場があるとなおさらいいんだ」
タケルは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「わざわざ怪しい会場に行って、作られた優しさで寂しさを紛らわせる必要もなくなるし、悪質な手口からお年寄りを守ることができる」
おっちゃんは、そう言ってコーヒーを飲み干した。
家族の見守り
親がこのような悪徳商法にのめり込んでいたら、早く気がつくことが大事なことです。
親の家に見慣れない日用品がたくさん積んであるとか、毎日決まった時間にウキウキして出かけていくとかといった、そうした小さな変化に気づくことが、離れて暮らす家族としても気をつけなけれならないのです。
「俺の親がそんな所にハマっていたら断然注意します」
と、タケルは、真剣に言い切った。
おっちゃんは、タケルの方を見ると、
「それをやると、逆効果なんだよ。お年寄りはせっかく自分を認めて優しくしてくれる場所を見つけたのに、家族は分かってくれないと反対に意固地になってしまう」
「そんなもんですかね」
「もし、おかしいなと思っても、絶対に頭ごなしに否定しちゃいけないんだ」
詐欺師たちは、ご家族は分かってくれませんよね、私たちのほうがあなたの味方ですよと洗脳しているからで、たまにしか来ないで注意ばかりする子供の意見より、いつも優しくしてくれる人の方を信じてしまうというのが人間の心理なのです。
『最近楽しそうだけど、どこに行ってるの? どんなお友達ができたの?』って、まずは相手の話を否定せずに聞いてみることが大事なことで、離れて暮らしていても会話がある家族は、このような詐欺にはかからないという傾向があります。
ポイントは、騙されている人に対しては正論で叩きのめさないことです。
親のプライドを守りながら、本人に『あれ? おかしいな』と気づかせるためには3つのステップがあります。
洗脳を解く3つのステップ
①「興味を持つフリ」をして、矛盾に気づかせる
まずは、親が持ち帰ってきた高額な商品やパンフレットを頭ごなしに否定しないことです。
『へえ、この布団、そんなに体にいいんだ。どういう仕組みなの? 病院の先生はなんて言ってるの?』と、あえて第三者的に質問してみます。
問いつめるように親に説明させようとすると、詐欺師の言っていたデタラメな説明を繰り返すことになるので、冷静に考えさせることで、自分でなんだかおかしいぞと気づかせるきっかけを作ることをします。
②「私も一緒に行きたい」と提案する
次に効果的なのが、『そんなに親切でいい人たちなら、私もお礼が言いたいから一緒に連れて行って』と頼んでみることをしてみます。
SF商法をやっている連中にとって、家族の同伴は一番のタブーだからです。
詐欺師たちは第三者が加わることで洗脳の魔法を解かれるのを嫌います。
もし、親と一緒に会場に行ったら、詐欺師たちは急に冷たい態度を取ったり、逃げ腰になったりするはずです。
③ 第三者に相談する
親にとって子どもはいつまでも子どもという考えがあるので、家族の言うことには意地を張って耳を貸さない場合があります。
『国民生活センター(188)』などの専門家といった、第三者の言葉などの知恵を借りることをおすすめします。
外部の力を借りることで、目がさめるキッカケになり、冷静さを取り戻せば気がつくはずです。
身内の思いやり
目が覚めて、自分が騙されていたことに気づいた時、お年寄りは激しい自己嫌悪に陥ることがあります。
『あんな見え透いた嘘に騙されるなんて』『家族に迷惑をかけてしまった』と、本人はひどく落ち込むことがあります。
場合によっては、そのショックで認知機能がガクッと落ちてしまうこともあるかもしれません。
家族は、詐欺に気がついて目が覚めた親を絶対に責めてはいけません。
これはオレオレ詐欺などにかかって、大金を盗まれた場合でも同じことがいえます。
「高い勉強代だったね」と、すべてを許して受け入れる器の大きさが必要なのは、親を責めたところでお金は戻ってこないからです。
詐欺について知ること

「実はな、俺はこういう詐欺の手口や、お年寄りが騙されないための知恵を、自分のブログに書き溜めているんだよ」
「えっ、おっちゃん、ブログなんて書いてるんですか!?」
タケルが目を丸くして驚くと、おっちゃんは照れくさそうに笑った。
「ああ、そうさ。日々の暮らしの中で、シニアが安全に、心豊かに暮らせるための情報を発信しているんだ」
「すごいな……! 俺も読んでみたいです。手口を知っていれば、お袋にも具体的に気をつけるポイントを教えてあげられますもんね」
「その通りだ。詐欺師の手口は日々、恐ろしいほど巧妙になっている。でも、事前にその手口を知ってさえいれば、いざという時に『あ、これがあのブログに書いてあったパターンだな』と冷静に対処できる」
いつも、新聞を読んでいるだけと思っていたおっちゃんだったが、タケルにとってなんだか頼もしく感じて見えた。
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おっちゃんとタケルの会話にもあるように、詐欺の被害を防ぐためには「手口を知っておくこと」が何よりの防衛策となります。
今回ご紹介したSF商法だけでなく、巧妙化するフィッシング詐欺や投資詐欺など、シニア世代を狙う多様な詐欺の手口を、このブログでは数多く取り上げて詳しく解説しています。
「自分は絶対に騙されない」という過信を手放し、ぜひ過去の記事やこれからの記事も読んでいただきながら、騙されないための確かな「知恵」を身につけてもらいたいと考えています。