高齢者がサクラ詐欺に騙される本当の理由|家族の正論がえぐるシニアの孤独

最近、SNSやマッチングアプリなどコミュニティサイトなどを通じて、高齢者が騙され、多額の老後資金を奪われる詐欺事件が後を絶ちません。

高齢者においてはスマホの普及から、気楽にマッチングアプリをするようになって、詐欺師たちの格好なターゲットにされています。

高齢者は長年働いて貯めた老後資金を持っていることから、一人暮らしの高齢者は狙われやすいと思われているからです。

ニュースを見るたびに、なぜあんな見え透いた嘘に騙されるのかといったことを感じることがあるのですが、自分は絶対に大丈夫と絶対思うことが出来ない何かがそこには秘められてい流のかもしれません。

今回は、長年社会で揉まれ、酸いも甘いも噛み分けてきたはずのシニアが、なぜ顔も見えない相手に全幅の信頼を寄せてしまうのかという、サクラ詐欺について掘り下げて考えてみることにします。

そこには、詐欺師の巧妙な手口以上に、シニア世代が抱える特有の心理があるのかもしれません。

サクラ詐欺とはどのようなものか

サクラ詐欺とは、マッチングアプリなどを通じて、メールやLINEなどで、「サクラ」と呼ばれる偽の相手が親しげに近づいてくる詐欺の手口のことです。

最初は「こんにちは、突然ごめんなさい」という何気ないメッセージから始まります。

親しげに会話を続けていき、やり取りが続くうちに相手はどんどん親切になり、「あなたのことが気になっています」「話しているととても楽しいです」などという言葉を送ってきます。

狙われるのは一人暮らしなどの高齢者が多く、今まで一人暮らしで誰にも相手にされなかったり、話し相手として接していくうちに、自分を必要としてくれているという感覚になり、どんどん深みにハマっていってしまうのです。

70代男性のAさんの場合

Aさんは、団地で一人暮らしをしています。

奥さんに先立たれて、子供はすでに独立していて、Aさんのことを心配してくれているのですが、それぞれが家庭を持っており、Aさんと会うのは年に一、二回程度です。

古くから住んでいる団地ですが、近所づきあいも少なく、一日中テレビだけが友達という日々が続いています。

幸いなことに、大手の会社を勤め上げ、退職金などの預金を考えると、年金暮らしとはいえそこそこ安定した暮らしができています。

そのようなAさんが、スマホをいじっていて何気なくマッチングアプリというのを見つけました。

マッチングアプリというものを知ったAさん

Aさんが見つけたマッチングアプリとは、かつてのいかがわしいような「出会い系サイト」とは異なり、身分証による本人確認や、24時間体制の監視が行われている管理型のサービスが主流なサイトです。

若者の間では、ここで知り合った男女が結婚したりすることがあるということで、自分の趣味や価値観に合う相手を効率よく探せるのが最大の特徴です。

シニアの利用目的においては、再婚相手探しだけでなく、「一緒にお茶を飲む友達」や「趣味を共有できるパートナー」を求める人が増えています。

Aさんも話し相手を見つけたいと思い、登録してみることにしました。

マッチングアプリについて

ここで、マッチングアプリについて知らない人のために説明すると、自分のプロフィール(写真や自己紹介、趣味)を登録し、気になる相手に「いいね」を送り、相手も「いいね」を返してくれたらマッチングしたということで、メッセージのやり取りが始まります。

外に出向く体力や気力がなくても、自宅にいながら同世代や共通の悩みを持つ人とスマホでやり取りができることから、シニアの間でも広く利用されるようになってきました。

マッチングアプリは、大手の会社が運営していて、会社自体がサクラと称する人を雇って偽っているということではないのですが、外部から入り込む詐欺グループは存在していて、シニアの寂しさにつけ込んで金銭を騙し取るという手口があるというのも事実です。

詐欺師たちは、甘い言葉で恋愛感情を抱かせた後、将来のためと称して投資や送金を促す手口で高齢者を騙していきます。

優しく話を聞いてくれる

Aさんがマッチングアプリをするようになってから、ある日、突然にメッセージが送られてきました。

「おはようございます。今日は寒いですね」といったメッセージが届いたことで、Aさんは嬉しくなり、すぐさま相手に返信のメッセージを送りました。

そのことをきっかけに、相手から毎日のようにメッセージが送られてくるようになったのです。

「昨日はよく眠れましたか?」といったような他愛もないメッセージが続くうちに、今まで何もやることがなかったAさんにとっては、メールが来ることが毎日の楽しみになってきました。

「現役時代はそんな大きなプロジェクトを任されていたんですね。本当に尊敬します」といった、自慢話とも取れるやり取りでも、嫌なそぶりせずに耳を傾けてくれます。

世の中のお荷物として相手にしてくれなくなったと感じていたAさんにとっては、自分を一人の人間として認めてくれているという感覚から、相手とのやり取りにのめり込んでいってしまったのです。

シニアがのめり込む理由

①話し相手がいないという孤独

一人暮らしの高齢者の中には、一日中、誰とも言葉を交わさない日が続く人も少なくありません。人間は本来、誰かと話し、誰かに気にかけてもらうことで生きていけるものですが、その基本的な欲求が長い間満たされていないとき、「あなたのことが心配です」という優しい一言が、一人暮らしのシニアにとってどれほど心に響くかということです。

②「まだ必要とされている」という感覚

定年退職や子どもたちの独立を経て、「自分はもう社会の役に立てない」と感じている高齢者は多くいます。そこに「あなたの話はとても参考になります」「あなたのような人と話せて嬉しい」と言われると、心が揺れるのは当然のことかもしれません。

③断れない優しさと遠慮

長年、他人に迷惑をかけないよう生きてきた世代の人は、相手を傷つけることをとても恐れます。「せっかく仲良くしてくれているのに、急に無視したら悪い」といった気持ちが、詐欺師に利用されてしまうことになります。

家族の正論

マッチングアプリにのめり込んでいったAさんですが、相手の女性がすすめられるまま、老後のお金を増やすことができるという話に乗ってしまい、500万円を投資資金として相手に預けることをしてしまいます。

Aさんにとっては、プロフィール写真を見て女性と思い込んでいたのですが、サクラ詐欺においては、相手は異性になりすましていただけであるかもしれません。

最初は配当金などが振り込まれていたのですが、だんだんと連絡が取れなくなってきて、そこで騙されたと思うようになりました。

大切に守ってきた老後資金が失われた時、事件は家族の知ることになり、 当然、子供たちは驚き、そして被害者であるAさんを激しく責め立てます。

「お父さん、みっともないよ」 「いい歳して、騙されて老後のお金を取られるなんて恥ずかしくないの?」

家族の言うことは客観的に見れば100%の正論で、Aさん自身も痛いほど分かっています。

しかし、家族から正論を突きつけられると、Aさんの心に浮かぶのは、反省よりも次のような悲痛な叫びだったのです。

「お前たちが、私の話をろくに聞いてくれなかったからじゃないか」

高齢者の悲哀

子供達はいつも忙しそうで、たまに家に遊びに来ても、その時はお金を無心するような話で来たような気がしていました。

「子供が高校に入るようになって、お金が必要なの」「住んでいる家が古くなってリフォームしなければならないの」

Aさんにとっては、詐欺師も子供達も自分のお金をあてにして近づいて来ているとしか思えなかったのです。

Aさんが昔話をすれば「またその話?」と子供達には煙たがられるのに、マッチングアプリの相手だけは、私の話をきちんと聞いてくれていたという拭いきれない事実だけが残っています。

高齢者が詐欺にかからないために

高齢者の詐欺被害において、「なぜそんなことで騙されたの」と、簡単に責めるだけでは終わらない原因があるような気がします。

被害者を責めたりするだけではなく、 この問題の本質は、詐欺師の巧妙さと同じくらい、身近な家族間の無関心さも見え隠れします。

もし、日常的に家族との温かい会話があり、自分の存在価値を認めてくれている居場所であったなら、見ず知らずの詐欺師の優しい言葉にひっかかる必要はなかったはずです。

詐欺師に奪われたのはお金ですが、彼らが提供してくれたのは、高齢になって誰も相手にしてくれないという寂しさというものにあったからかもしれません。

騙されるのが悪いのではなく、騙す方が悪い

詐欺被害のニュースを見るたび、私たちはつい「騙される方が悪い」「なぜあんな手口に引っ掛かるのか」と切り捨ててしまいがちです。

しかし、騙されてしまう根底にあるのは、「誰かに話を聞いてほしいという寂しさ」や、子供たち家族に迷惑をかけたくないという、自立した生活をしなければという気持ちがあるからのような気がします。

寂しさを紛らして生きていかなければといった、他人に迷惑をかけてはいけないと思うのと同時に、でも一人の老後の人生は寂しいのです。

オレオレ詐欺のような手口に騙されてしまう背景にも、サクラ詐欺に引っかかることにも、自立して生きていかなければという心理があるような気がします。

家族であっても迷惑をかけてはいけない。

それは、親としての尊厳であり、家族へ対する深い愛情からくるものです。

高齢者を詐欺から守るということは、セキュリティ対策や警告だけでなく、私たち自身の家族への接し方を見直す必要があるのではないでしょうか。

毎日誰かと話せる環境や気軽に相談できる人間関係など、地域のつながりといったものがあったなら、見知らぬ相手からのメッセージに頼る必要はなかったはずです。

制度や法律で詐欺を防ぐことも大切ですが、それと同じくらい、あなたの大切な人が孤独ではないと感じられる日常を作ることが、何よりの予防になるのではないでしょうか。

今日、あなたの大切な人に電話してみてください。

世間話でいい、昨日何を食べたかでいいのです。

その一本の連絡が、詐欺師が入り込む隙間を埋める一番の防犯になるのかもしれません。