20代の若者でも100万円を騙し取られた巧妙な詐欺の手口

詐欺の被害者といえば、高齢者というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

しかし、今回ご紹介するのは、20代の若者が100万円を騙し取られた実際の話です。

インターネットを使いこなし、ネット情報に強いはずの若者でも騙されるのです。

そこには、単なる知識不足では片付けられない巧妙に仕組まれた罠と、逃げ場を奪う心理的トリックがありました。

被害者がどのように追い詰められていったのか、その全貌を紐解きます。

すべては免許証を落としたことから始まった

詐欺師はある日突然、見知らぬ人間を騙そうとするわけではありません。

彼らがまず行うのは、個人情報を足がかりにして相手の警戒心を巧みに解き、恐怖でパニックに陥れることから始めます。

東京に住む20代のAさんは、ある日、財布ごと免許証を落としてしまいました。

その時点では「困ったな」と思いながらも、免許証の再発行手続きを済ませ、特に大きな問題はないだろうと思っていたのです。

電話番号まで偽装する巧妙な手口

Aさんが免許証を落としてからしばらく経ったある日、Aさんの携帯電話が鳴りました。

「福岡県警のものですが、Aさんでいらっしゃいますか」

福岡県警を名乗る男は、落ち着いた口調でこう言いました。

「Aさんの携帯電話が、詐欺グループが使用していた電話番号として登録されています。確認のためご連絡しました」

東京に住むAさんは、なぜ福岡県警から電話がかかってくるのかと不信感を覚えました。

すると相手は先手を打つように言いました。

「この電話が福岡県警からのものであると信用していただくために、一度電話を切りますので、福岡県警の代表番号を調べていただき、改めてこちらからかけ直しますので、着信番号をご確認ください」

そのように言われたAさんは、インターネットで福岡県警の代表番号を調べました。

そして、しばらくして電話がかかってきました。

画面に表示された番号は、今しがた調べた福岡県警の代表番号と一致していました。

「本物だ」——Aさんの疑いは完全に消えました。

しかし後から判明したことですが、最初にかかってきた電話番号の先頭には「+1」という国際電話を示す記号がついていたのです。

詐欺師は海外から電話をかけながら、着信表示だけを福岡県警の番号に偽装するという高度な技術を使っていたことがわかりました。

Aさんの個人情報

免許証を落としたことから詐欺師グループに利用されたのではないかと思ったAさんは、免許証を落としたことを説明します。

免許証には氏名・住所・生年月日、そして顔写真という、個人を特定するための情報が全て揃っているからです。

しかし、今回の警察からの電話と免許証を落としたことは偶然の一致で、詐欺師グループはAさんの携帯電話番号などの個人情報は、裏の世界で取引されている名簿から電話してきていたのです。

zoomでつながった「警察署」の部屋

警察官になりすました詐欺師は、Aさんから一連の説明を聞くために、Aさんの東京の住所と名前を確認した後、こう言いました。

「ここからは事情聴取ではなく正式な取り調べとなります。録音させていただきますので、周囲に人がいる場合は、捜査上の都合からその場を離れていただく必要があります」

Aさんは会社にいたのですが、誰もいないところということで、自分の車の中に移動しました。

そしてzoomでのビデオ通話に切り替えました。

zoomを知らない人がいると思いますが、zoomはスマホのアプリやパソコン上で顔を見ながら通話ができるテレビ電話のことです。

zoomの画面の向こうには、警察署のような部屋が映っていました。

制服を着た男が座っており、いきなり一枚の書類をカメラに向けます。

そこには、「逮捕状」という文字がはっきりと映し出されていました。

日付とともにAさんの名前が記載されています。

それを見て、Aさんの頭は真っ白になったのは当然なことでした。

「逮捕状」という言葉がパニックを生む

詐欺師は畳みかけるように言ってきます。

「Aさんのあなた名義で購入された携帯電話が、詐欺グループの主犯格が使用していたものと一致しました。現在Aさんは詐欺グループの共犯として逮捕状が出されています」

驚いたAさんは、「免許証を落としたので、悪用されたのだと思います」と説明しました。

Aさんの頭の中では免許証が拾われて、新しく携帯電話を買って、それが詐欺師グループに利用されていると思い込んだからです。

すると詐欺師の警察官は突然声を荒らげ、

「嘘をつくんじゃない!」と、言い放ちます。

その一言でAさんは完全にパニック状態に陥りました。

逮捕という言葉が突きつけられ、家族への申し訳なさや、会社を解雇されるかもしれないという最悪のシナリオが頭の中を激しく駆け巡ります。

冷静に考えれば、警察が電話一本で逮捕状の存在を教えたり、電話口で怒鳴ったりすることはないのですが、極限のストレス下に置かれたAさんに、その判断力は残されていませんでした。

Aさんは、すっかり詐欺師たちの手中にハマってしまったのです。

追い詰められたAさんの心の中で何が起きていたのか

Aさんが騙されていく過程で、心の中では何が起きていたのでしょうか。

最初の電話がかかってきたとき、Aさんは確かに不信感を持っていました。

しかしその不信感は、自分で調べた福岡県警の番号と、相手からかかってきた電話番号が一致した瞬間に消えてしまいました。

そしてズームの画面に「逮捕状」という文字が映った瞬間、Aさんの心に強烈な恐怖が走ったのです。

逮捕されるということが頭をよぎり、家族に知られるし、会社にも迷惑がかかるということで追い込まれてしまったということになります。

これらのことが一度に押し寄せてきたときに、人間の脳は冷静な判断する余裕を失い、一度に処理しきれないほどの情報と感情が押し寄せてきます。

さらに詐欺師は、周囲に人がいなくなるように仕向け、被害者を孤立させて追い込むことで、Aさんは自分で判断することができなくなり、詐欺師の言うままに誘導されていくようになるのです。

「保釈金」という逃げ場の罠

「今日中に福岡県警まで出頭してください」

警官役は落ち着き払ったように言いました。

「それは無理です」と、Aさんが答えると、

詐欺師は、

「わかりました。では今すぐ逮捕状をあなたの住む警察署に送り刑事が逮捕に伺います」

この言葉で、Aさんはますます追い込まれてしまいます。

「ただし、裁判所への保釈申請という形を取れば、逮捕は伸ばすことができます」

詐欺師のその言葉に、ひとまず逮捕が免れると安堵したAさんは、後のことはそれから考えようと思ったということです。

「保釈金は、Aさんの身の潔白が証明されたらすべて返還されます」

この時点で、逮捕もされていないのに保釈金などという話は出てこないのですが、法律に詳しくないAさんは、このことが不思議と思わなかったということです。

暗い洞窟の中に放り込まれて、そこから光が差し込む出口を見つけた心境だったかもしれません。

「100万円を裁判所の口座に振り込んでいただく必要がありますが、いますぐ振り込むことができますか」

「逮捕されずに済むなら」と、Aさんは定期預金を解約して、すぐに指定された口座に100万円を振り込むことをしました。

振り込んで安心したAさんだったのですが、その後に冷静になって考えて気づきました。

指定された口座名が、裁判所でも警察でもなく、個人名義の口座だったということです。

その時点でようやく、全てが詐欺だったということに気がついたのです。

保釈金を払えば逮捕されないという言葉が出てきたとき、Aさんはそれを救いの言葉として受け取ってしまいました。

これは、追い詰められた人間が、差し出された救いに対して飛びつくという行動と同じです。

Aさんはまんまと詐欺師の罠にハマってしまったのです。

なぜ20代の若者が騙されたのか

Aさんは決して不注意な人間ではありません。

それでも騙されてしまった理由は、詐欺師が五つの罠を巧妙に重ねたからです。

①個人情報で信憑性を高めたこと

②電話番号の偽装で疑いを消したこと 

③テレビ電話という視覚的な演出で現実感を作ったこと 

④逮捕という恐怖でパニックにしたこと

⑤逃げ場を用意することでお金を振り込ませたこと

これらの張り巡らされた罠により、最終的にお金を盗まれてしまったのです。

この詐欺を見破るためのポイント

警察が保釈金を口座に振り込むよう求めることは絶対にないということを知ることです。

裁判所や警察が、個人の口座にお金を振り込ませるよう求めることはありません。

電話番号の偽装は技術的に可能だと知っておくことも大事なことです。

特に「+1」から始まる電話番号は、国際電話番号であるという表示されたものであって、国際電話番号からかかったきたものは詐欺と疑ってください。

どんな状況でも一人で判断しないことも大事なことで、Aさんをわざわざ一人にさせるように仕向けたことは、孤立させることにあるのです。

警察からの電話であっても、こちらから電話を掛け直すということをしてください。

若い人でも騙される

今回の事件が教えてくれることは、詐欺師は高齢者だけを狙っているわけではないということです。

個人情報を手に入れ、信頼を演出し恐怖でパニックにさせるという、この流れにはまってしまえば、誰でも騙されてしまうのです。

詐欺師の手口はこちらを追い込むことで、ありもしない嘘で結果的に騙すということをします。

不安を植え付け恐怖でパニックにさせ、孤立させて追い込んでから、逃げ道を用意した先でお金を盗むというのが一連の手口です。

この流れにはまってしまえば、年齢も知識も関係なく誰でも同じ状況で騙されてしまうのです。

「自分は大丈夫」という過信が、一番の危険信号でもあります。

どんなに追い詰められた状況でも、まず電話を切って冷静な気持ちになることが、あなたを守る最大の防衛策になるのです。

詐欺師たちは、あの手この手を駆使して騙してきますので、常に最新な詐欺の手口を知ることで、いざという時に『これは罠かもしれない』と一歩立ち止まれる、心のゆとりを持っていただきたいと思います。