東京の下町に、小さなたこ焼き屋があります。
店を切り盛りしているのは、気さくな人柄のおっちゃんです。
もともとは大阪で食べた、たこ焼きの味に惚れ込み、何年もかけて作り方を覚え、今ではこの町で店を構えるようになりました。
外はカリッと、中はとろり。
どこか懐かしくて、少しだけやさしい味のたこ焼きとして、近所の人がその味を求めてフラリと立ち寄ります。
しかし、店のことはほとんど奥さんに任せきりで、おっちゃんはというと、朝になると決まって近くの喫茶店に顔を出します。
新聞を広げて、ゆっくりコーヒーを飲むのが、おっちゃんの毎日の日課です。
そして今日もまた、いつもの席で静かな時間を過ごしていました。
メールを確認してみる

窓から差し込むやわらかい光の中で、おっちゃんはいつものようにコーヒーを飲んでいると、そのとき、ドアが開きアキコが入ってきました。
アキコは、近くの美容院を経営していて、おっちゃんとは商店街の知り合いであり幼馴染です。
今日のアキコの表情は、いつもより少しだけ曇っていることがわかります。
おっちゃんの席に座るなり、アキコはスマホを取り出すと、
「これ、ちょっと見てくれる?」
差し出された画面の一通のメールを見せると、「カード情報に問題があります。すぐに連絡して下さい」と書かれています。
おっちゃんはアキコの方を見ると、手に持ったコーヒーをゆっくり置いて、
「これな…ちょっと怪しいな」と言いました。
「え?でも本物みたいよ。だって、カード会社の名前で来てるし」
「よくある、フィッシング詐欺だな」
おっちゃんは、スマホのメールのアドレスを指さすと、よく見てごらん。
「このカード会社のアドレスに何か違和感があると思わないか?」
アキコは目を丸くして、スマホのメールのアドレスを確認した。
アドレスの違和感
「そういえばアドレスがやたら長いし、カード会社の名前に似ているようで何か違うような気がするわ」
「詐欺師たちは本物のアドレスに似たようなものを作ることができるんだ。よく見るとここの一文字が違ったのになっているのが分かるかい」
アキコはスマホをのぞき込んで確認すると、「ほんとだ…全然気づかなかった」
「こういうのは、わざとそっくりなものにしてあるんだ。ぱっと見ただけでは分からないようにしてある」
その他にも、いろいろな確認の仕方があるのだけれど、確かめたいのなら、このアドレスではなく、本物のサイトのアドレスと比較してみることだ。それに、ここに書かれている日本語にも少し違和感を感じないか」
アキコはメールの言葉を読み返してみた。
「たしかに…なんか言い回しが変だし、なんか似ているようで薄っぺらいような文章のような気がする」
おっちゃんは、納得したように頷きました。
「最近ではAIが書き換えたり、ロゴなども本物のようなものを作っているので、それだけでは簡単に見破れなくなってきているんだ」
これだけは覚えておくといい
おっちゃんは、アキコのスマホをそっと押し戻すと、
「これだけは覚えておいた方がいいかもしれない。メールに書いてあるリンクは、絶対に押したらダメということだ」
アキコは少し驚いた顔をして、おっちゃんを見た。
「押した瞬間に偽物のページに飛ばされ、情報を抜き取られたりすることがある」
アキコは小さな声で聞いた。
「もし…もう押してしまったら?」
「読むぐらいだったり、押すぐらいだったら大丈夫だと思うが、カード番号などを書いてしまったら、すぐにカード会社に連絡してカードを止めてもらったり、パスワードを変えることをした方がいい」
おっちゃんは、少しだけ表情をやわらげた上で、早く動けば被害は防げることが多いから、躊躇しないことが大事であると教えてくれた。
迷ったら削除する勇気
メールを見たときに、本物かどうかと考える前に、 まず疑うことが大切ということかもしれません。
メールに、次のような内容があれば、一度立ち止まって疑ってみてください。
- カード番号や個人情報を求めてくる
- 「今すぐ」「至急」と急がせる
- 不安をあおる内容
このようなことが書かれていたら、この時点で詐欺メールだと思った方がいいのです。
おっちゃんからのアドバイス
一番シンプルな対策としては、メールはすぐに削除してしまうことかもしれないが、もし本物かもしれないと心配なときは、企業のサイトにアクセスして調べることをおすすめします。
それだけで、多くの詐欺被害は防ぐことができるからです。
「ずいぶん詳しいのね」
アキコの質問に、
「昔、詐欺サイトと知らないで、3万円振り込んだ経過があるんだ」
「へぇー。そんなことがあったんだ。今日は本当に勉強になったわ。こういうこと、もっと早く知っておくことで、詐欺を防ぐことになるわね」
アキコが席を立ちながら言った。
「実は、こういう詐欺の手口や騙されないための知恵をブログに書き溜めているんだ」
おっちゃんはコーヒーカップを持ち上げながら、照れくさそうに笑った。
「えっ、おっちゃんがブログを?」
「ああ。フィッシング詐欺だけじゃなく、オレオレ詐欺や投資詐欺、催眠商法まで、いろんな詐欺の手口と、なぜ騙されてしまうのかという心理まで書いてある」

アキコは目を輝かせた。
「それ、うちのお客さんにも教えてあげたいわ。高齢のお客さんが多いから喜ぶと思うわ」
アキコはスマホを取り出すと、「サイトの名前を教えて」と言った。
「高齢者のための詐欺から身を守る知恵というサイトさ」
「わかったわ、後でじっくり読んでみる」と言い残して、アキコは喫茶店から出て行った。
おっちゃんの決意
おっちゃんは、自分が詐欺サイトで騙されてから、詐欺について調べるようになりました。
最近は新聞を読むたび、高齢者を狙った詐欺事件の記事を目にします。
一生懸命働いて貯めた老後のお金を、悪意ある詐欺師に奪われ、老後の平穏な生活が台無しになってしまうということを考えると、同じシニアとしていたたまれない気持ちでいっぱいです。
そこで、詐欺の手口やなぜ騙されてしまうのかということを知ることが、防衛策になるのではないかとブログを書いています。
自分の財産は、自分で守るしかないということを知って、騙されない知識を身につけることが、安心した老後を送れるようになるのです。