本物そっくりの偽サイトが農家の生業を奪った——SNSブランド詐欺の深刻な実態

サクランボが店頭に並ぶ季節になりました。

山形県産のブランドサクランボを探していたMさんは、SNSで一つの販売サイトを見つけました。

そこには、美しい果樹園の風景や生産者の笑顔の写真とともに、「今年も甘く実りました」「産地から直接お届けします」という言葉が並んでいます。

「生産者の顔が見えるサイトなら安心だろう」 そう思ったMさんは、疑うことなく代金を振り込んんで注文したのです。

しかし数日後、届いた箱を開けると、中に入っていたのは広告で見たものとはまったく違う、傷んだ粗末なサクランボだったのです。

「これはおかしい」 そう思ったMさんがサイトに書かれていた電話番号へ連絡すると、電話に出た農家の人は、申し訳なさそうに、そして困り果てた声でこう話してきたのです。。

「そのサイトは私たちのものではありません。私たちのホームページをそっくりそのままコピーした偽物で、すでに警察にも相談しています」

Mさんが見ていたのは、本物の農園のホームページを丸ごとコピーした、極めて精巧な偽サイトだったのです。

「完全コピーサイト」の恐ろしさ

今回の詐欺の最も恐ろしい点は、偽サイトの不気味なほどの精巧さにあります。

文章も、果樹園の写真も、商品の価格も、すべて本物のサイトと同じです。

本物の農家のサイトを丸ごとコピーした上で、生産者の顔写真だけをAIで別人に差し替えるという巧妙な手口が使われています。

違うのは、お金を振り込む口座番号と、送られてくる偽物の品物ということです。

「生産者の顔が見える販売」という、私たちが買い物をするときに最も安心し、信頼する要素そのものが、詐欺師の最大の武器として悪用されてしまっているのです。

被害を受けたのは、購入者だけではなかった

この事件でお金を騙し取られた購入者は、もちろん大きな被害者ですが、実は他にも大きな被害を受けた人がいます。

それは、本物のサクランボ農家の生産者の人たちです。

偽サイトで粗末なサクランボをつかまされ、騙されたと怒った購入者からのクレームが、なんと本物の農家のもとへ殺到したのです。

「偽物を送ってきた」「詐欺だ」「お金を返金しろ」といった苦情の電話が、毎日のようにかかってくることから仕事も手につきません。

その度に「私たちのサイトではありません」「私たちも被害者なのです」と、苦しい説明を続けなければなりませんでした。

そして最終的に、精神的にも追い詰められた生産者は、SNSやネットでのサクランボの販売そのものをやめるという、苦渋の決断を余儀なくされてしまったのです。

何を信じていいかわからない時代になったのか

今回の事件で詐欺師が奪ったのは、購入者のお金だけではありません。

農家が何年もかけて育ててきた「ブランドへの信頼」と、お客さまと直接つながる「大切な販売の場」までも奪い取ったのです。

詐欺とは、単に人のお金を盗むだけではなく、真面目に働く人の仕事誇り、そして長い年月をかけて築いた信頼まで壊してしまう、とても卑劣な犯罪なのです。

かつては、「農家の顔が見える販売」が何よりの安心の証でした。

生産者の顔写真と名前が掲載されていれば、それは確かな信頼の証明だったからです。

しかし今や、その生産者の顔すらAIで簡単に偽造できる時代になってしまいました。

文章にしても、昔のようなカタコトの日本語は使われなく、すべてはAIによって作られた精巧なものになっています。

今回の事件は、生産者の顔が見えるという信頼というものまで壊してしまったのです。

偽サイトから身を守るための4つの方法

正直にお伝えすると、パッと見ただけで、100%詐欺を完全に見分ける方法はもはやありません。

しかし、以下の4つのことを組み合わせることで、騙されるリスクを大きく減らすことができます。

① SNSの広告から直接買わず、自分で検索し直す

 SNSに表示された広告をタップして、そのまま購入するのは大変危険です。気になる商品を見つけたら、一度Googleなどで「農園名」や「商品名」を検索して、信頼できるサイトかどうかを自分で調べるという用心深さもあってもいいかもしれません。

② 購入前に電話をかけてみる 

サイトに記載されている電話番号に、一度電話をかけてみることもいいかもしれません。

電話番号が本物の農家のものであれば、確認することができますし、詐欺サイトは、電話番号が使われていなかったり、不自然な対応をされたりした場合は、詐欺と疑って購入をストップすることができます。

③ 「農園名・詐欺」で検索してみる 

購入手続きに進む前に、サイトのアドレスなど検索してみてください。

もしすでに同じ手口で被害が出ている場合などは、注意喚起の情報がいち早くネットで見つかることがあります。

④ 最初は少額から試す 

「どうしてもこの農家の直送商品を食べてみたい」という場合は、いきなり高額な大容量のものを買うのではなく、一番少ない量のものから注文してみるのも一つの防衛策です。

万が一の場合の被害を、最小限に抑えることができるからです。

被害に遭ったらすぐに相談を

もし偽サイトで被害に遭った場合は、一人で抱え込まず、消費者ホットライン(188)へ相談してください。

被害を報告することは、自分だけでなく、同じ被害者を増やさないことにもつながるからです。

また、本物の農家への風評被害を少しでも早く止める力にもなります。

今回の事件で最も考えさせられるのは、本物の農家がネット販売をやめなければならなかったという現実です。

詐欺師は購入者のお金を盗んだだけではなく、生産者が長い年月をかけて築いてきた信用を傷つけ、お客様との大切なつながりまで奪ってしまったことです。

詐欺は、多くの人の人生や仕事を壊してしまう卑劣な犯罪であるのです。

その詐欺という犯罪から、私たちが自分たちの身を守るためには、信じる前に確認するという習慣こそが、私たちの身を守る新しい防衛策なのかもしれません。