おっちゃんが教える|クレジットカードを盗まれたら最初に考えること

その日のおっちゃんは、いつものように窓際の席でコーヒーを飲んでいました。

タケルがカウンターで仕込みをしていると、ドアが開いて見慣れない顔の男性が入ってきます。

50代くらいでしょうか、疲れた表情でどこか落ち着かない様子です。

「すみません、コーヒーを一杯もらえますか」

男性は窓際のおっちゃんの前の席に座りました。

しばらくすると、スマホを取り出して誰かに電話をかけ始めます。

「ああ、俺だ。実はバッグを盗られてしまってな……交番で事情を説明してきたところだ。今、駅前の喫茶店にいるので迎えに来てもらえないか」

置き引きに合う

おっちゃんは、男性の話を聞くともなく新聞を読む手を止めました。

電話が終わると、男性はため息をつきます。

「大変でしたな」

おっちゃんが声をかけると、男性は驚いたように振り向きました。

「恥ずかしい話で……」

男性は苦笑いしながら話し始めました。

息子が大学入学のために東京に出てきたので、様子を見に来たのですが、駅を出たところで若い男に話しかけられて、目を離したすきに持っていたバッグを盗まれてしまったということです。

「バッグの中には、クレジットカードも免許証も、それに息子の家の住所を書いたメモまで入っていて……交番で事情を説明してきたのですが、息子が来るまでここで待とうと思いまして・・・」

おっちゃんはコーヒーカップを置くと、男性をまっすぐに見ました。

「クレジットカードは、すぐに止めましたか」

男性は少し慌てた様子で言いました。

「あ……交番でも言われたんですが、カード会社の番号がわからなくて、まだ止めていないんです」

おっちゃんは眉をひそめました。

「それは急いだ方がいい。クレジットカードを盗んだ連中は、すぐにカードを使い始めますから」

カードはすでに使われていた

男性がスマホで慌ててカード会社の番号を調べていると、男性のスマホが突然鳴りました。

クレジットカード会社からの問い合わせの電話です。

カードで高額の利用があったことから、それの問い合わせでした。

男性の顔がみるみる青ざめるのがわかります。

タケルは心配そうにその様子をカウンターから見ていて、おっちゃんに聞きました。

「おっちゃん、カードってそんなにすぐ使われるんですか」

「ああ、盗んだ瞬間から使い始めることもある。特に今は電子決済やネット通販で、サインも暗証番号も必要ない使い方ができるからな」

しばらくして電話を終えた男性は、ほっとした表情で戻ってきました。

「カードを止めてもらいました。不正使用の分は、申告したので調査してもらえるということでした」

おっちゃんは頷きながら言いました。

「それは良かった」

盗まれたものに、クレジットカードがあった場合は、すぐにクレジット会社のカスタマーセンターに連絡して、カードの使用ができないようにしてください。

カードを紛失したり盗まれたら、すぐに警察への届け出をします。

クレジットカードを不正使用された場合、カード会社への補償申請には、警察への届け出が必要になる場合があるからです。

カード会社の番号や、クレジット番号は、普段からスマホのメモ帳に控えておくことをお勧めします。

クレジットカードの暗証番号は、誕生日や電話番号の下4桁などといった、分かりやすいものには設定しておかないようにしましょう。

「1234」「0000」といった単純な数字は、犯人が真っ先に試すことができてしまうこために、暗証番号は簡単には推測できないものにしておくことが肝心です。

今のクレジットカードは、タッチ決済が主流になり、少額の普段の買い物なら、暗証番号やサインなしでも利用することができます。

つまり、犯人グループが暗証番号を知らなくても、盗んだ直後に、少額の買い物をあちこちの店舗で繰り返すということで、不正利用が簡単にできてしまうのです。

したがって、紛失に気づいた瞬間に1分1秒でも早く電話して、カードでの買い物を止めることと警察に届けることが大事なことになってきます。

安全な国という神話

かつて、日本は世界中から犯罪が少ない安全な国と称賛されていました。

財布を落としても、中身が入ったまま交番に届けられて戻ってきたり、夜中に女性や子どもが一人で歩いても平気だと言われています。

海外ではそのようなことがないからです。

日本では、見知らぬ人であっても、まずは信頼からスタートすることや、地方では家の鍵をかけずに外出しても平気ということが当たり前だったのです。

しかし今では、私たちの日常でそんな安全神話が少しずつ崩れ始めていて、地方でも鍵を閉めていないと空き巣などに狙われるという、昔では考えられなかったような強盗事件や詐欺事件が起こっています。

なぜ、日本はこれほどまでに物騒な社会になってしまったのでしょうか。

格差社会の広がりと、追い詰められる若者たち

かつての日本は「一億総中流」と呼ばれ、誰もが真面目に働けばそれなりの暮らしができる社会でした。

しかし現代は、非正規雇用の増加や物価高などが重なり、経済的な格差が広がっています。

特に将来に希望が持てず、経済的・精神的に孤立し、追い詰められた若者が増えていることも一つの要因です。

心の余裕や社会への信頼を失った結果、目先のお金欲しさに安易な道へ走ってしまうケースがあることも否めません。

海外の犯罪組織が日本の安全を標的にしてきた

インターネットが世界中を繋いだ結果、犯罪のボーダーレス化が進んでいます。

海外の巧妙な詐欺グループや犯罪組織から、日本は格好の標的とされて狙われるようになったのは、今までの安全な国という神話が、防犯に対しての意識が低いとされてきたからです。

さらに、SNSの普及で犯罪への敷居を下げてしまい、簡単に犯罪に手を染めることができるような社会になってきてしまいました。

そして、日本の高齢化社会によって、最も騙しやすくお金を持っている国として、悪いことをする人間にとっては、日本は最も騙しやすい国としてターゲットとされているのです。

息子が迎えに来る

「お父さん、大丈夫?」

息子さんが喫茶店に駆け込んできました。

男性は息子の顔を見てほっとした様子で、安心したのか、しばらくしてから二人は喫茶店から帰っていきました。

一部始終を見ていたタケルは、おっちゃんに聞きました。

「こういう時のために、普段からできることってありますか」

おっちゃんは、コーヒーを飲み干すと、三つあると答えました。

日頃から備えておくこと

一つ目はカード会社の緊急連絡先をスマホに保存しておくこと

いざという時に番号がわからなければ、対応が遅れることから、普段から各カード会社の紛失・盗難デスクの番号をスマホに登録しておくことが大事なことになります。

二つ目は財布の中身を把握しておくこと

何が入っているかわからないと、盗難後の手続きに時間がかかることから、財布の中に何があるかなど、カードの種類と枚数、免許証など重要書類を把握しておくことが必要です。

三つ目はカードを必要最少限にすること

財布の中に使わないクレジットカードを何枚も入れておく人がいますが、財布に入れるカードは必要なものだけにしておくことです。盗難時の被害を最小限に防ぐことができるからです。

窓の外を、父と息子が並んで歩いていくのを、おっちゃんは微笑むように見ていました。

いつまでも、安全で安心な日本であるためには、みんなが防犯意識を持つことなんだ。

これからの時代を生き抜く「新しい防犯意識」

「昔は良かった」と嘆くだけでは、自分の身を守ることはできません。

社会が変わったのであれば、私たちの「防犯の常識」もアップデートしておく必要があります。

  • 「人は良い人ばかりではない」という前提を持つこと
  • スマホやSNSの便利さの向こう側にあるリスクを知ること
  • 「自分だけは大丈夫」と思わず、鍵かけや防犯対策を徹底すること

日本の良さである「お互いを思いやる心」は大切にしながらも、目に見えない現代のリスクに対しては、一人ひとりがしっかりと「心の鍵」をかけておく必要があるということです。

そのことが、これからの時代を安心して豊かに生きるための第一歩ではないかと思うのです。