おっちゃんが教える|一度騙されると繰り返し狙われる悪徳商法の罠

その日のおっちゃんは、いつものように窓際の席でコーヒーを飲みながら、スマホでニュースを読んでいました。

「おっちゃん、また詐欺のニュースですか」

カウンターから声をかけたタケルに、おっちゃんは首を横に振りました。

「今日は詐欺じゃない。悪徳商法の記事だ」

「悪徳商法って、詐欺と同じじゃないんですか」

おっちゃんはコーヒーカップをゆっくり置くと、タケルを見ました。

「そこが大事なところだ。詐欺と悪徳商法は似ているようで、全く違うものなんだ」

詐欺と悪徳商法の決定的な違い

タケルはカウンターに肘をついておっちゃんの話を聞き始めました。

「詐欺というのは最初から全て嘘だ。架空請求やオレオレ詐欺のように、存在しない請求や嘘の話でお金を騙し取る。これは完全な犯罪だ」

「悪徳商法は違うんですか」

「悪徳商法は商品やサービスが実在する。リフォーム工事も、健康器具も、実際に存在する。しかし不当な手段で売りつけたり、必要でもないものを不安を煽って、相場の何倍もの値段で買わせたりする」

タケルは少し考えながら言いました。

「つまり詐欺は完全な嘘で、悪徳商法はやり方が汚いということですか」

「そうだ。だからこそ悪徳商法は詐欺より厄介なんだ」

「なぜですか」

「詐欺は騙されたと気づいた瞬間に被害者だとわかる。しかし悪徳商法は『高い買い物をしたかもしれない』程度の認識で終わってしまうこともある。だから、人によっては被害者が自分は騙されたと認識できなこともあるんだ」

70代女性の場合

おっちゃんはスマホを置いて話を続けた。

「一つ話を聞かせると、ある70代の女性は一人暮らしで、持ち家に住んでいた。ある日、作業着を着た男性が訪問してきて、女性に向かって愛想良く話しかけてきた」

いかにも純朴そうな青年だったので、女性は男の話を聞くことにした。

「近所のリフォーム工事をしていたら、お宅の屋根の瓦がずれているのが見えたので心配でお声がけしました」

女性は、とつとつと話す男性に対して、「何と親切な人だ」と思い、男性の話を真剣に聞いてしまいました。

「ほら、あそこの瓦が少しずれているでしょ」

男性は、下から見える軒を指さして、女性に教えるのですが、女性はよく分からないままその方向を確認しました。

「あそこがずれているということは、点検しないと分からないのですが、上の方もずれているということだと思います。今、車にハシゴが積んであるので、ちょっと屋根に上がってスマートフォンで写真を撮ってきましょうか?」

男の言葉に女性は、「でも、タダじゃないんでしょ?」と聞くと、男は「ご近所の工事のついでですから。点検だけなら無料で行いますよ」と人懐っこい笑顔で言いました。

男は道路に停めてあった作業車からスルスルと伸びるハシゴを取り出し、手慣れた様子で女性の家の屋根に上っていったのです。

しばらくして、屋根から降りてきた男は、「やはり大変なことになっていましたよ」と深刻な顔で自分のスマートフォンの画面を差し出して見せます。

そこで見せられたのが、屋根瓦が確かにずれている写真と瓦が割れている写真でした。

「このままでは雨漏りどころか、地震が来たら屋根がずり落ちる危険があります」と、脅かすように言ってくるのです。

驚いた女性は、「直すのにいくらぐらいかかるかしら」と聞くと、男は、「近くに工事に来ているので、今日契約してくれれば特別価格で80万円でできます」という返事をしてきました。

女性は、すぐに直してくれるならと、その日のうちに契約書にサインしてしまったのです。

「タケル、これは詐欺か悪徳商法かどちらだと思う」

タケルは少し考えました。

「屋根の工事は本当にしたんですよね」

「そうだ。工事自体はした。しかし、緊急に修理をするようなことでもなかったし、写真を撮った時に瓦をずらしたりして写真を撮ったのかもしれない。それに相場の何倍もの値段で、不安を煽って契約させたということが考えられる」

「だったら、悪徳商法そのものなんじゃないですか」

悪徳商法を見分けるサイン

「屋根の修理は行われているので、『契約に基づく商取引』ということで、詐欺として立証しにくいかもしれないが、わざと細工をしたりするというのは悪徳商法のズルいところだ」

おっちゃんが説明する言葉を聞きながら、

「工事していても、どんな工事をしたか分からないし、普通なら地元の工務店と相見積もりをとってみるのがいいんじゃないですか。そうしたら、もっと安くしっかりした工事をしてくれるかもしれない」と、タケルは言った。

「そうなんだ。ここで、どこの工務店か分からないところに頼むより、地元で店を構えて商売をしているところに頼む方が安全だ」

おっちゃんは、喉を潤すようにコップの水を飲むと、

「女性の家に来た男を思い出してみろ。地震が来たら崩れると不安を煽り、今すぐ契約してくれればと安くするなど、急がせるやり方は、悪徳商法の決定的なサインといえる。普通の真っ当な工務店なら、お客の恐怖心を煽ってその日のうちに契約させるなど絶対にしない」

おっちゃんは、身を乗り出すように、タケルに悪徳商法の見破り方を説明した。

「いいかタケル。普通の商売と悪徳商法には明確な違いがある。これを覚えておけば、いざという時に自分を守ることができる」

  1. 普通の正当な商売は、お客様のために考え、どうすれば良いかなどアドバイスをしたり、お客様が納得して契約することを大切にする。
  2. 悪徳商法は、商品やサービスは一応存在するものの、普通の商売とは全く違って、不安を煽ったり、必要ないのに強くすすめたりする。
  3. 悪徳商法は、上手いことを言ったり、嘘や大袈裟なことを言って、高い値段で早く契約させようとする。
  4. 訪問販売ですすめられた契約は、クーリングオフなどの説明をしなければならないのに説明がなされていない。
  5. 契約書や見積書がいい加減に書かれている。
  6. 詐欺に近い悪徳商法は、どこにある会社かわからないように、すぐに会社の名前を変えたり、住所もいい加減なところにあって実態がない。

一度払うとカモにされる仕組み

「でもおっちゃん、この女性は高いお金を払ってしまったけど、屋根工事はしたんですよね」

「ああ、悪徳商法はギリギリのところで一応は作業をする。後になって地元の工務店に来て見てもらったところ、工事らしいことはしていても、見せかけの工事で誤魔化しているということらしい」

「悪い奴らですね」

タケルは、吐き捨てるように言った。

「しかし、悪徳商法の本当の恐ろしさは、一度、騙されてしまった人間は、騙されやすいというレッテルが貼られ、何度でも業者の標的にされてお金を騙し取られる」

「えっ……どういうことですか?」

「悪徳業者の間では、『カモリスト(名簿)』というものが高値で取引されるんだ」

この高齢女性が、80万円を払った瞬間、彼女の情報は『この人は、脅せばすぐにお金を払う』という情報が裏社会に回ってしまうということだ」

おっちゃんはコーヒーを一口飲み、静かに言った。

「つまり、『床下の湿気がひどい』『シロアリの駆除が必要だ』『浄水器をつけないと病気になる』などと、この女性に対して色々な業者が近寄ってくる」

「つまり一度引っかかると、騙しやすいとして狙われ続けるということですか」

「そうだ。この女性も気がついたときには、1年間で総額300万円以上を様々な業者に払っていたということなんだが、はっきり分かるまで自分が騙されているという認識がなく、高い買い物をしたかもしれないといった程度にしか思っていなかったということだ」

悪徳商法の心理的な罠

「そんなの、絶対おかしいって気づきそうなのに……」

タケルが不思議そうにおっちゃんを見ると、おっちゃんは優しく首を振った。

「悪徳商法に引っかかる人は、決して愚かだったりするわけじゃないんだ。むしろ、人を疑うことを知らない、真面目で優しい人ほど罠に落ちやすいんだ」

「うーん」と、タケルは唸ってしまった。

確かに、騙されやすいというより、人が良すぎるのかもしれないとタケルは思った。

「そのような善良な人を騙すような悪徳業者は、まったく許せない」

タケルは自分のことのように腹が立ってきたのです。

悪徳業者に引っかからないために

「悪徳業者に騙されないために、何かいい方法はありますか」

真剣な顔で尋ねるタケルに、おっちゃんはコーヒーを飲み干しながら言った。

「簡単なことだ。いつも言っているように、相手が急がしてきても、すぐに契約しないことだ。どんなに緊急に聞こえても、家族や誰かに相談する。それだけで悪徳商法の大半は防げる」

「屋根が崩れると言われてもですか?」

「そうだ。屋根が崩れるから今すぐしないと危ないと言われたら、こう言い返せばいい。そんなに危険なら、今すぐ息子に電話して確認しますと言えばいいんだ。悪徳業者は、第三者が介入してくることを何よりも嫌がるから、それを言った途端に逃げていくはずだ」

「相談する人がいないときは、局番なしの188に連絡すればいいんですよね」

タケルは、いつもおっちゃんから言われている、困ったときは国民生活センターに相談するということを自慢げに言った。

おっちゃんは席を立ち、窓の外の穏やかな街並みに目を向けた。

「詐欺も悪徳商法も、狙うのは人の不安を煽ったりすることだ。そして、人間の優しさを踏みにじろうとする。だからこそ、日頃から一人で決めない習慣を心がけておくことが一番の防犯になるんだ」

おっちゃんがいう言葉を聞いて、タケルは思いました。

詐欺は嘘をつく。

悪徳商法は親切を装おって騙そうとする。

どちらも人の心の隙間を狙っている点では同じなのかもしれない。

だから、こちらとしてもしっかりと身を守る知恵を持つことが大事であって、世の中のことを知ることが老後を安心して生きることになるということを、あらためて確信したタケルでした。