警察官を名乗る預貯金詐欺|キャッシュカードが偽物にすり替えられた

「あなたの銀行カードが犯罪グループに狙われています」

もし突然こんな電話がかかってきたら、あなたはどう思うでしょうか。

「それは大変だ」

「早く何とかしなければ」

そう思う人がほとんどではないでしょうか。

実は今、その不安な気持ちにつけ込む詐欺が増えています。

今回は、キャッシュカードを偽物とすり替える「預貯金詐欺」についてお話しします。

一本の電話から始まった

午後2時過ぎ。

74歳の田中さんの自宅に電話がかかってきました。

相手は警視庁捜査一課を名乗る男性です。

「田中さんの銀行カードが犯罪グループに狙われています」

突然の話に、田中さんは驚きました。

すると男性は続けて話します。

「犯罪グループがカードを盗もうとしています。安全に保管するため、刑事がお宅へ伺います」

本物の警察官のような落ち着いた話し方だったので、田中さんは疑いませんでした。

刑事を名乗る男がやって来た

しばらくすると、玄関のチャイムが鳴りました。

ドアを開けると、刑事と名乗る男性が立っていました。

男性は警視庁と印刷された封筒を差し出しながら言いました。

「キャッシュカードをこちらの封筒に入れて保管してください」

田中さんは言われるままに、キャッシュカードを封筒の中へ入れました。

すると男性は封筒を受け取り、「念のため、封印をしておきます」と言ってカバンから印鑑を取り出しました。

ところが、

「申し訳ありません。朱肉を忘れてしまいました。お持ちでしたら貸していただけませんか」

と田中さんに頼んできたのです。

田中さんは何も疑わず、奥の部屋へ朱肉を取りに行きました。

そのわずかな時間でした。

男性は手元にあった封筒を、あらかじめ用意していた別の封筒とすり替えていたのです。

もちろん、その時の田中さんは知る由もありません。

戻ってきた田中さんから朱肉を受け取ると、男性は封筒が開けられないように印鑑を押して封印をしました。

そして封筒を田中さんに返します。

「これは大切な証拠になります。どこか安全な場所に保管しておいてください」

さらに男性は安心させるように続けました。

「私たちはこの近くで犯人グループを警戒していますので、どうぞ安心してください」

警察官らしい言葉に、田中さんはすっかり安心してしまったのです。

男性を見送った後も、自分が騙されているとは夢にも思っていませんでした。

本当の被害は翌日に起きた

その後、田中さんのもとに、今度は銀行の職員を名乗る人物から電話がかかってきました。

「警察から連絡を受けています。口座を一時的に凍結する手続きを行いますので、暗証番号を確認させてください」

田中さんは、何の疑いもなく暗証番号を伝えてしまいました。

それから数日が過ぎました。

その後、警察から何の連絡もないことから、次第に不安になった田中さんは、近くの交番を訪ねて事情を説明しました。

すると警察官は驚いた表情で言いました。

「それは詐欺の可能性があります。封筒の中を確認してみてください」

田中さんは慌てて封筒を開きました。

しかし、そこに入っていたのは自分のキャッシュカードではありませんでした。

一見すると本物そっくりですが、よく見るとキャッシュカードに似せて作られたプラスチック製の偽物だったのです。

さらに銀行で確認したところ、口座に入っていた80万円の預金はすべて引き出されていました。

田中さんは、この時になって初めて自分が詐欺の被害に遭っていたことを知ったのです。

なぜ騙されてしまったのか

田中さんは決して不注意な人ではありませんでした。

それでも騙されてしまったのは、詐欺師が人の心理を巧みに利用したからです。

相手は警察官を名乗っていました。

私たちは普段、警察から電話がかかってきたら疑うよりも先に信じてしまいます。

それは警察という存在に対する信頼感があるからです。

さらに、「あなたのカードを守るためです」と言われると、「助けてくれている」という安心感が生まれます。

その安心感が、冷静な判断を鈍らせてしまうのです。

今回の手口について

今回のケースで特徴的だったのは、田中さんがキャッシュカードを持ち去られたわけではなかったことです。

カードを入れたと思っている封筒は返されました。

そのため田中さんは、「カードは手元にあるから大丈夫」と安心してしまっていたのです。

このように、詐欺師は、いろいろな手口を考えて騙そうとしてきます。

今回の被害で最も大きな問題点は、暗証番号を教えてしまったことでした。

たとえカードを盗まれたとしても、暗証番号が分からなければ現金を引き出すことはできません。

警察官であっても、銀行員であっても、暗証番号を聞くことはありません。

暗証番号は絶対に他人へ教えないということを守ってください。

これが大切な預金を守るための基本なのです。

もし電話や訪問で暗証番号を聞かれたら、その時点で詐欺を疑ってください。

そしてもう一つ大切なことがあります。

暗証番号は、

  • 生年月日
  • 電話番号
  • 住所の番地

など、他人に推測されやすい番号を避けて設定してください。

こうした番号は、本人は覚えやすいのですが、詐欺師にとっても推測しやすい番号だからです。

被害を防ぐために

詐欺師が最も嫌がる言葉があります。

それは、「家族に相談します」という一言です。

本物の警察官なら、家族への相談を止める理由はありません。

もし少しでも不安を感じたら、一人で判断せず、家族や信頼できる知人に相談してください。

また、相手が警察官を名乗っている場合は、その場で信用するのではなく、自分で警察署の電話番号を調べて確認することも大切です。

電話で教えられた番号ではなく、警察署の代表番号にかけ直し、「このような連絡がありましたが、本当に警察からでしょうか」と確認してみてください。

そのひと手間が、大切な預金を守ることにつながります。

警察官は、日頃から私たちの安全を守ってくれる頼もしい存在です。

だからこそ、本物の警察官に迷惑をかけないためにも、確認することは決して失礼なことではありません。

今回のような詐欺では、警察官を装った犯人が信用を悪用しています。

確認するという行動は、警察を疑うためではなく、本物の警察官と詐欺師を見分けるために必要なことなのです。

本物の警察官であれば、確認のために電話をかけ直したり、家族に相談したりすることを責めることはありません。

むしろ、そのような慎重な行動を理解してくれるはずです。

より良い老後を生き抜くためにも、詐欺から身を守る生活を心がけてください。