高齢者を言葉巧みに騙し、老後の大切なお金を奪い取る詐欺は許し難い犯罪です。
しかし、 なぜ彼らは、毎日見知らぬ高齢者に電話をかけ、あれほど冷酷な嘘をつき、お金を騙し取ろうとするのでしょうか。
その答えは、詐欺師たちが自らの罪悪感を完全に麻痺させて、悪いことをしているという意識がない、恐ろしい心理的な構造を持っているからです。
今回は、詐欺師はなぜ存在するのかといった観点から、騙されないようにするための方法を考えてみることにします。
詐欺集団はなぜ存立するのか
昔から詐欺というものはありました。
地面師詐欺や取り込み詐欺、寸借詐欺などがあり、人を騙して利益を得る犯罪は存在していました。
しかし、現在の詐欺は昔とは全く次元が異なります。
最大の違いは、ビジネスのような巨大な組織犯罪になっているということです。
彼らは「高収入」や「ホワイト案件」といった甘い言葉で、世界中から若者を集めます。
そして、厳しい規律とノルマを与え、システムとして詐欺を働かせます。
会社組織と似ている構造
その内部構造は、私たちがよく知る一般的な会社組織と驚くほどそっくりです。
社長としての黒幕がいて、組織の中枢を担う中間管理者がいて、その下には「かけ子」や「受け子」など、現場で最も危険な仕事をさせられる「実行役」の人間がいます。
ただ、一般的な会社組織と決定的に違うところがあります。
それは、警察に捕まるのは常に下で働いている末端の人間だけであり、組織の代表である黒幕は、部下を庇うどころか使い捨ての駒として扱っているという点です。
だからこそ、この詐欺という悪質なビジネスは、綿々(めんめん)と途切れることなく継続されていくのです。
なぜ人は詐欺集団に加わるのか
実行犯を使い捨ての駒として扱い、黒幕だけが安全に儲かるということが分かっていても、なぜそのような組織に人は集まるのでしょうか。
詐欺犯罪に関与した容疑者の年齢別では、30歳未満の若者が約6割を占めているということです。
彼らは、格差社会の中で絶望していて、高収入の簡単な仕事という言葉に引き寄せられて集まります。
最初は犯罪と気づかないまま、荷物を受け取るだけ、電話をかけるだけという軽い仕事として教えられます。
このようなことから、自分が詐欺に加担しているという認識が薄いまま、気づいたときには抜け出せなくなっているということです。
いざ辞めたいと思っても、組織から家族に危害を加えるなどと脅されたり、暴力を振るわれたりして、一生逃げられない仕組みになっているのです。
捕まるまで後戻りはできない
詐欺の犯罪組織に加わると、初めに感じていた「悪いことをしている」という感覚が薄れ、いつの間にか、人を騙すことに達成感や喜びを覚えるようになっていきます。
電話口の向こうにいる高齢者がどんな顔をして泣いているか、老後のために何十年もかけて貯めたお金を失い、どれほど絶望するかなど、詐欺師たちの目にはそうした悲劇がまったく映りません。
彼らにとって重要なのは、自分もうまく人を操り大金を手に入れることができたという達成感という事実であり、むしろそこに喜びを感じてしまうのです。
これは心理学で「非人間化」と呼ばれる現象です。
相手を血の通った人間としてではなく、単なる「ノルマの数字」「ゲームの標的」として認識することで、騙しているという罪悪感が完全に麻痺させてしまうのです。
組織の中にいると罪悪感が薄れる
彼らが良心の呵責を感じなくなるもう一つの理由は、組織という集団の中にいることで、個人の責任感が薄れてしまうことにあります。
詐欺集団の中では、騙すのが当たり前という独自のルールや価値観が作られています。
周りの人間がみんな同じことをしている特殊な環境に置かれると、いつの間にかそれが普通のことのように錯覚してしまうのです。
人間としての善なる価値観が悪の価値観に、洗脳されてきたということになるのかもしれません。
さらに、徹底した役割分担で、 かけ子は電話をかけるだけ、受け子はお金を受け取るだけといった、このように作業を細切れにされることで、自分のやっていることが最終的にどんな悲劇を生むのかといった全体像が見えなくなります。
つまり、自分一人で騙したわけではないという自分の行為を正当化して、上の指示通りにやっただけという責任逃れの感覚が、彼らから悪いことをしているという意識を完全に奪い去ってしまうのです。
マニュアルが人間の感情を消す
詐欺集団には詳細なマニュアルがあります。
「最初にこう言う」「相手がこう答えたらこう返す」「お金の話はこのタイミングで出す」といったように、会話のすべてがマニュアル化されています。
詐欺師たちは、マニュアル通りに動くことを繰り返していくうちに、自分で考えることをやめてしまい、言われた通りに作業をこなすことが、精神的に楽になってきます。
その結果、電話の向こうにいるのは「困っているお年寄り」ではなく、単なる「マニュアルの手順を踏むための相手」になってしまうのです。
そこに相手を思いやる感情や、かわいそうだと思う良心の呵責が入り込む余地はありません。
そして極めつけは、組織の中にはびこる「都合のいい言い訳」です。
「騙されるやつが悪い」「お金を持っている高齢者から取るんだから問題ない」「みんなやっていることだ」からといった合言葉のようなものが、詐欺という悪いことをしているという感覚がなくなるのです。
なぜ高齢者が標的にされるのか
詐欺集団が冷酷なビジネスとして動いている以上、彼らは最も効率よくお金を奪えるターゲットを分析して選びます。
その答えに当てはまるのが高齢者なのです。
高齢者は、長年働いて蓄えた退職金といった資産があり、孤独で相談できる人が近くにいないということで、高齢者の一人暮らしをターゲットにするのです。
それに、高齢者は権威に従順で、警察や役所といった言葉に弱いという特徴があります。
さらに、AIやデジタル技術に不慣れなため、手口をごまかしやすいことも挙げられます。
詐欺集団にとって、高齢者は決して守るべき存在などではなく、騙しやすい最高の標的として狙われているのです。
詐欺を知ることが最大の防衛策
ここまでお読みいただき、詐欺グループが一つの冷酷なビジネスとして存在していること、そしてなぜ私たち高齢者が執拗に狙われるのかが、お分かりいただけたかと思います。
では、このような巧妙な詐欺グループのターゲットになったとしても、決して罠に引っかからないためにはどうすればいいのでしょうか。
それには、次の3つの習慣を身につけることです。
① 知らない電話には出ない(常に留守番電話にしておく)
② その場で絶対に決断しない(必ず一度電話を切利冷静になる)
③ 必ず誰かに確認・相談する(第三者の意見を聞いたり確認したりします)
これらは、警察や公共機関からよく言われていることで、単なる注意事項や防犯の標語ではありません。
実はこれこそが、詐欺犯罪に対する最も確実で強力な「防御行動」なのです。
彼らの卑劣なビジネスは、ターゲットを孤立させ、パニックに陥らせて、すぐにお金を払わせることを目的にしています。
特に、家の中で一人きりでいる高齢者は、詐欺師にとって絶好の獲物なのです。
だからこそ、あなたが電話口で即答せず、一呼吸置いて一人で判断しないことが、詐欺師たちの口車に乗らない最大の防衛策になります。
詐欺がどれほど巧妙になっても、私たちが手口の裏側を知り、正しい知識を持っていれば、決して騙されることはありません。
安心して笑顔で毎日を楽しむために、詐欺から身を守る方法を習慣づけましょう。