12億円が騙された——富裕層高齢者が劇場型詐欺に狙われている

「12億円が騙し取られた」

そんなニュースを聞いたとき、私は思わず耳を疑いました。

被害者は愛媛県に住む80代の女性です。

多くの人は、「なぜそのような大金を騙されたのだろう」と思ったかもしれません。

しかし、最近の詐欺は、想像以上に進化して巧妙になってきているのです。

従来の詐欺とは別物

従来の詐欺は比較的単純なものでした。

突然電話をかけてきて、不安をあおり、慌てているうちにお金を振り込ませる。

そんな手口が中心だったのです。

オレオレ詐欺や架空請求詐欺がその代表例です。

こうした詐欺は、とにかく多くの人に電話をかける「数打ち当たる」の方法でした。

しかし、この方法には弱点があります。

手口が広く知られるようになると、騙される人が減ってきてしまうのです。

そこで詐欺師たちは、新しい方法を考えたのが、時間をかけて信用させる「劇場型詐欺」です。

相手の資産状況を調べ、何週間も、時には何か月もかけて信頼関係を築きます。

そして巧妙な作り話を信じ込ませ、最後に大金を騙し取るのです。

劇場型詐欺の恐ろしい構造

今回の事件では、薬局店員、警察官、検察官という複数の人物が登場しました。

劇場型詐欺には緻密に計算された役割分担があり、ストーリーがあるのです。

今回の12億円騙された詐欺のストーリーはこのようなものでした。

薬局店員を名乗る女性が「保険証が不正利用されている」と伝えてきます。

何もない日常生活に、突然入り込む不安の種を植え付けることから始まります。

次に警察官に電話が代わって、あなたが犯人でないことは知っているので、身の潔白を証明するために協力してほしいという言葉で、被害者を協力者として取り込んできます。

そして、検察官や弁護士を名乗る人物が加わり、これは大掛かりな事件なので、他の人には口外しないでほしいという指示を出すのです。

犯人は相談できる人を遮断することで、被害者を孤立させるように持っていきます。

このように、被害者の心理を段階的に追い詰めていって、警察に協力しているという正当性を持たせることで、詐欺師の意のままに動かすように仕向けられていくのです。

なぜ富裕層の高齢者が狙われるのか

最近の劇場型詐欺が狙うのは、一般的な高齢者ではありません。

資産を持っている高齢者を調べ上げ、大金を持っている人に狙いを定めます。

詐欺師たちの裏社会では、このような資産を持っている高齢者の名簿が出回っているとされています。

不動産の登記情報、金融資産の規模、生活水準、こうした情報は、以前に、アンケートなどに答えたものが収集され、「高齢者の資産家」としてリストとしてまとめられているということです。

「この人なら大きな金額を動かせる」と、詐欺師たちは判断した上で、時間と労力をかけて狙いをさだめていくのです。

詐欺師たちは役割を演じて近づいてくる

劇場型詐欺の恐ろしいところは、色々な人になりすまして、近づいてくることです。

警察官、検察官、弁護士など、次々と別の人物が現れます。

被害者から見ると、まるで本当に事件が起きているような錯覚に陥ることになり、そこに権威のある人が多く現れるのは、筋書きを信用させることが必要だからです。

金融機関まで騙すように計画されていた

今回の事件で特に恐ろしいのは、金融機関の目も欺いたという点です。

12億円という巨額を動かすためには、銀行の窓口での手続きが必要です。

通常、銀行は高額送金に対して確認を行います。

「誰かに言われて送金していませんか」という確認が、詐欺を防ぐ最後の砦のはずでした。

しかし、今回の事件の劇場型詐欺はその砦さえも崩してしまいました。

長期間にわたって「あなたは捜査に協力している」という意識を植え付けられた被害者は、銀行員の確認に対しても、詐欺師たちが事前に準備していた土地取引の書類を見せることで欺いたのです。

詐欺師が作り上げた「物語」が、被害者の現実認識そのものを書き換えてしまって、騙されたのではなく信じ込まされたといっていいのかもしれません。

詐欺から身を守るために

劇場型詐欺は、とても厄介な詐欺です。

被害者をいわば洗脳に近いような状態で、警察や検察を名乗る人物と話し続けて、自分のやっていることは捜査のために協力をしていると思い込ませているからです。

しかし、どのような理由であっても、警察や検察が電話だけでお金を振り込ませることはありません。

もし話の中で、「口座にお金を移してください」とか、指定した口座へ振り込んでください」という話が出たら、まず詐欺と疑ってください。

この話が出た瞬間に電話を切り、自分で調べた警察の番号にかけ直すかして確認することが、詐欺から身を守るための知恵です。

詐欺と見破る言葉

また、詐欺師はよく次のような言葉を使います。

  • 「誰にも話さないでください」
  • 「家族にも秘密です」
  • 「周りに誰かいないところで話しましょう」
  • 「捜査中なので口外しないでください」

これらは、被害者を孤立させるための言葉です。

このような言葉が出たら、すぐに警戒してください。

そして、どんなに相手から言われても、お金を動かす時は必ず誰かに相談することです。

本物の警察や検察が、捜査への協力を求める際に「家族にも話さないで」と指示することはありません。

もし身近に、相談できる家族や知人がいない場合は、

  • 警察相談専用電話「#9110」
  • 消費者ホットライン「188(いやや!)」

へ、電話してください。

詐欺は進化するだから知識も進化させる

詐欺師は時間をかけて作り話を信じ込ませ、全財産を巻き上げる劇場型の手口を使うようになってきたのは、詐欺対策が広まったきたことから、詐欺師もより巧妙な手口に進化させてきているのです。

そこで、私たちも知識を進化させる必要があるといえます。

「劇場型詐欺という手口がある」「複数の権威が登場したら疑う」「口外禁止と言われたら詐欺のサインだ」——これらの知識を持っているだけで、詐欺の罠に気づく可能性が格段に高まります。

12億円という過去最高の被害が教えてくれたことは、詐欺師を決してあなどってはいけないということです。

そして、我々としても知識を進化させることが、詐欺に対抗できる唯一の武器となるのです。