怪しいという感覚が詐欺師を遠ざける——知識と知恵で撃退

警察庁の調べによると、2024年の特殊詐欺被害のうち、高齢者が占める割合は全体の65.4%にのぼっているということです。

この数字を見ると、高齢者は騙されやすいというそんな印象を持ってしまいます。

しかし本当にそうなのでしょうか。

もしかすると詐欺師たちは、高齢者なら騙せるとそう考えて、最初から標的として狙っているのかもしれません。

では、私たち高齢者は、どのようにして、詐欺師たちから身を守ればいいのでしょうか。

そのことを、一緒に考えたいと思いながら、私はこのブログを書いています。

ある高齢女性の話

今から数年前のことです。

一人の高齢の女性のもとに、一本の電話がかかってきました。

「あなたの息子さんにお金を貸したのですが、返していただけないでしょうか」

普通なら、突然そんなことを言われれば、誰でも焦ってしまいます。

さらに相手は、

「このまま返していただけないのなら、警察に被害届を出させていただきます」と、不安をあおるように話してきました。

しかし、その高齢女性は、まったく動じませんでした。

そして相手に、静かにこう答えたのです。

「それはそれは、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ただ、息子もいい大人ですので、借りたお金は本人が責任を持ってお返しするようにさせます。ついては、お返しするためにご住所を教えていただけないでしょうか」

すると電話口の相手は、突然黙り込み、そのまま電話を切ってしまいました。

その高齢女性は、90歳になる私の母親でした。

母は、特別な詐欺対策について詳しく知っていたわけではありません。

ただ、日課のように新聞を隅から隅まで読み、世の中の出来事に関心を持っていました。

何か怪しいと思う感覚

このことを考えると、私の母は「何かおかしい」と立ち止まる感覚を、持っていたのだと思います。

さらに、本人が借りたお金なら、本人が責任を持つべきという、当たり前なことを言ったまでです。

詐欺師たちは、人をあせらせることや恐怖を感じさせることで、最初から冷静な判断を奪おうとしてきます。

「今すぐ払わなければ大変なことになる」そう思わせて、考える時間を与えないのですが、私の母は、慌ててなんとかしなければということではなく、人間としての筋道の通った対応をしたのです。

私はこの出来事を思い出すたびに、詐欺から身を守るために本当に大切なのは、高度な知識だけではないのだと感じています。

「慌てないこと」「すぐに信じ込まないこと」「一度立ち止まること」

そんな当たり前の感覚が、最後に人を守ってくれるのだと思っています。

怪しいという感覚はどこから来るのか

この高齢女性が、詐欺師を退散させることができた理由は何だったのでしょうか。

私はそこに、長年の人生経験から生まれた、何か怪しいという感覚があったからだと思います。

人は長く生きるほど、さまざまな人と出会います。

親切な人、誠実な人、ずる賢い人、平気で嘘をつく人。

そうした経験を重ねる中で、人の言葉や態度の、微妙な違和感を感じ取る力があるのだと思います。

「この人の話は、どこか不自然だ」「なぜそんなに急がせるのだろう」そんな小さな違和感が、怪しいと思わせたのではないかと思います。

実はこの感覚は、若い世代よりも、長く生きてきた高齢者の方が鋭く持っていることがあります。

だから私は、高齢者は騙されやすい存在なのではなく、本来は人生経験によって培われた見抜く力を持っているのだと思っています。

母が騙されなかった理由

冒頭の高齢女性が、詐欺師を退散させることができたのも、慌てなかったからでした。

何かおかしいと感じても、詐欺師の手口にのって仕舞えば、きっと騙されていたかもしれません。

普段通り落ち着いて対応したことであり、相手の話をそのまま信じるのではなく、筋を通しながらも、相手の一方的な話だけを受け入れることをしなかったからです。

もちろん、これはたまたま上手くいった例でもあります。

すべての詐欺師が、同じように退散するとは限りません。

ただ言えることは、詐欺師は、冷静に考えて対応する人を嫌うということがあるかもしれません。

それでも高齢者が騙されるのはなぜか

では、そんな「見抜く力」を持っているはずの高齢者が、なぜ騙されてしまうのでしょうか。

そこにはいくつかの理由があります。

①認知機能の変化

加齢とともに判断力や記憶力が変化することがあります。「おかしい」という感覚があっても、冷静に対処する力が追いつかない場合があるからです。

②孤独による判断力の低下

一人暮らしで誰にも相談できない状況では、その場で一人で判断しなければなりません。「おかしい」と感じても「自分の気のせいかもしれない」と思い込んでしまうことがあるのです。

③詐欺師の巧妙さ

現代の詐欺師は人間の心理を徹底的に研究しています。「おかしい」という感覚が働く前に、権威ある言葉や恐怖で思考を止めてしまうという手口を使ってきます。

④日本人としての美徳

「人を疑うのは失礼だ」「断ったら申し訳ない」という誠実さや思いやりが、詐欺師に逆手に取られてしまうことがあります。

これらの、日本人の高齢者が持っている特有な考え方が、詐欺師に付け入る隙を与えてしまっているのではないかと思っています。

高齢者が詐欺から身を守る知恵

「高齢者は詐欺に弱い」というこの言葉は、正確ではないと思っています。

長年生きてきたからこそ、人の嘘や違和感を感じ取る、大切な感覚を持っているのです。

ただしその感覚は、慌てた瞬間に働かなくなってしまいます。

だからこそ、「おかしい」「怪しい」と感じた時は、慌てないことが何より大切なのです。

そして、次のことをいつも心がけておいてほしいと思います。

・冷静になること
・慌てず一呼吸置くこと
・一人で抱え込まないこと
・家族や身近な人と話し合うこと
・詐欺の手口を知っておくこと

最後の「詐欺を知ること」は、とても大切なことです。

なぜなら、世の中がどんどん変わってきて、どのようなことが起きているかを知ることが、犯罪や詐欺について気づくようになるからです。

しかし、知識だけでは十分ではありません。

本当に大切なのは、その知識をどのように使うかという知恵です。

例えば、「急がせてくる相手は危ない」と知っていても、実際に電話がかかってきた時、慌ててしまえば、その知識は働かなくなってしまうからです。

だから、知識だけではなく、その場で立ち止まったり、冷静に考えたりする知恵を持つことが大事なのです。

詐欺師は、人の弱さにつけ込んできます。

だからこそ、慌てないこと、一人で抱え込まないことなど、怪しいと感じる自分を信じることで冷静に対応することなのです。

その知識で裏付けされた知恵こそが、あなたを詐欺や悪徳商法から守ってくれる最大の防御になります。